【連載: 漫画『ONE PIECE』ワンピースで学ぶ世界史】第4話 「海軍モーガン大佐」から考える英国『マグナ=カルタ』誕生
この連載は無料公開されている『ONE PIECE公式漫画アプリ』から中学校社会科の歴史、高校世界史や日本史への興味・関心を引き出していくプロジェクトです。今回は第4話に登場する海軍大佐「斧手のモーガン」の発言から「偉さと優秀さ」の関係を考えながら13世紀の英国『マグナ=カルタ』誕生に興味を広げます。
■偉い=優秀?海軍モーガンの問い
ワンピースのとある一幕です。
「おれは えらい」
「はっ なにしろ大佐でありますから!!モーガン大佐」
そうです、腕っぷしで大佐まで上り詰めたモーガンは偉いのです。
さらに続きます。
「この基地で最高位の大佐であるこのおれは 最高に優れた人間だという事だ・・・・・・!!!」
「偉い人間がやることが全て正しい!!!違うかてめぇら・・・⁉︎」
「はっ!!その通りであります大佐!!」
偉さと優秀さというのも歴史的にも興味深いテーマですね。劉備の息子、劉禅は三国志の中でも有名ですが、蜀を継いで偉かったけどあまり優秀という評価ではなかったりします。それでも蜀を数十年維持したのは凄いとも思えますが、世界史的にはあまり注目されない方ですね。
劉禅 - Wikipedia
■偉い=優秀ではない歴史的事例
世界史の教科書にも登場する「偉かったけど優秀じゃなかった」暗君というと、この方です。
西ヨーロッパで中央集権国家で成立していく過程で登場する英国ジョン王。
プランタジネット朝のヘンリ2世がフランス西半部を領有して大勢力を築きましたが、その後このジョン王がフランス王フィリップ2世と争ってフランス地域の領土の多くを失い、更にカンタベリ大司教の任命をめぐって教皇インノケンティウス3世から破門され、臣下になる始末。
Wikipediaにはこうあります。
ジョン(John, King of England、1167年12月24日 - 1216年10月18日または19日)は、プランタジネット朝(アンジュー朝)第3代イングランド王(在位:1199年 - 1216年)。同朝の初代王ヘンリー2世とアリエノール・ダキテーヌの末子。あだ名は欠地王(けっちおう、John Lackland)で、出生時に父ヘンリー2世から領地を与えられなかったことに由来する[1](領地を大幅に失ったため失地王との日本語表記もあるが、Lacklandの訳語としては正しくない)。失政に次ぐ失政で国内諸侯の怒りを招き、王の権限を制限するマグナ・カルタへの合意を余儀なくされた[1]。
ジョン (イングランド王) - Wikipedia
更にこれでもか、とモーガン大佐の偉い=優秀説を否定する評価が続きます。
無能・暴虐・陰謀好き・裏切り者・恥知らずと評され、大陸領土喪失・甥殺しによる信望の喪失・教皇への屈服とイングランドの寄進・重税・諸侯の反乱と失政が続き、唯一評価されるのは「強制されてマグナ・カルタを認めイギリスの民主主義の発展に貢献した」ことのみと、在位当時から後世の評価まで徹頭徹尾評判の悪い王である。
徹頭徹尾評判の悪い王だそうですよ、モーガンさん。
■優秀出なくても歴史的な存在価値がある欠地王ジョン
そうです、世界史は優秀な人ばかりが太字になるわけではないのです。
上記の引用のこの部分に注目です。
唯一評価されるのは「強制されてマグナ・カルタを認めイギリスの民主主義の発展に貢献した」ことのみ
この何度も出てくる大憲章こと『マグナ=カルタ』は、①新しく課税する時は高位聖職者・大貴族の集会の承認を要すること、②教会や都市の特権を尊重し、③商人の自由交通を許す、などが定められたものです。やりたい放題の中世の王様に対して、部分的でも自由を主張したはじめての動きとしてイギリス憲政史上の画期的事件とみなされています。
あまりにもダメダメな王様なので貴族が「いい加減にしろ!あんたに任してるとろくなことないから、これに署名しろ!」ってなったことで統治者の権限に制約をかけて、法による支配を明文化し、イギリス憲法の始めとなったようです。
■ダメダメだったけど海軍を育てたジョン王
ワンピースの世界では海軍は非常に重要な勢力ですね。このジョン王も海軍育成の功績があるようです。
近年ではその反動から、海軍の育成やリヴァプールの建設、イングランドにおける司法・行政の発展。スコットランド・ウェールズ・アイルランドへの支配の道筋を付けたという点で再評価する声も出てはいるが、イングランド史上最悪の君主という暗君の評価は覆りそうもない。 兄リチャードの十字軍遠征、その帰途に虜囚となったことによる身代金、と莫大な出費が嵩んだ後に即位したことも困難な治世の原因となった。
見直しはあるものの、史上最悪の君主という評価は覆りそうもないらしい…。劉禅にしてもジョン王にしても、前代が優秀だとなかなか辛いですね。あとは時代にも影響されますからね。
やはり偉さと優秀さが両立するためには実力が必要で、「腕っぷしで大佐まで上り詰めた」という点に限ってしませばモーガン大佐は正しいのかもしれませんね。
■参考文献 今回のテーマを深掘り
■参考文献②筆者の基本セット
・『ONE PIECE公式漫画アプリ』
・教科書、用語集、人物辞典他
■あとがき
まさかモーガンから『マグナ=カルタ』につながるとは思いませんでしたが、ワンピースは登場人物だけでなくそのセリフから世界史を考えさせてくれる場面がたくさんありますね。
ご覧いただきありがとうございました!
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