歴史人物の子孫を育てる雑草パパ新聞

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【連載: 漫画『ONE PIECE』ワンピースで学ぶ世界史】第111話”バロックワークス"から考える"理想国家"の世界史〜ソクラテス、プラトン『国家』、そしてトマス・モア『ユートピア』、ジョージ・オーウェル『1984年』と手塚治虫まで〜

この連載は無料公開されている『ONE PIECE公式漫画アプリ』から中学校社会科の歴史、高校世界史や日本史、そして現代世界情勢への興味・関心を引き出していくプロジェクトです。第111話に登場する"バロックワークス"から"理想国家"について関心を広げます。

過去分はこちらです。
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[次子6歳年次作: バロックワークスについて語るイガラッポイ]

バロックワークスの最終目的

第111話ではウィスキーピークに到着したルフィ一行が盛大な歓迎を受けますが、後半それがバロックワークスの罠だと分かります。
その後Mr.5が現れ、アラバスタの王女を拐おうとする中、イガラッポイがゾロとナミに助けを求めます。そこでイガラッポイがバロックワークスの目的について語ります。

ナミ「………そんな正体もわからない様なボスの言うこと どうして みんな聞くのよ」
イガラッポイ「バロックワークスの最終目的は"理想国家"の建国」

この犯罪組織が掲げる"理想国家"がどういうものか、ワンピースを読み進めるとある意味それを実現した海賊の例が登場し、数々の悲劇が描写されます。

ただこの"理想国家"というものは現実社会でも答えのない難しいテーマかもしれません。第二次世界大戦後も資本主義と共産主義陣営がそれぞれ争ったようなアメリカvsロシア、近年では民主主義と専制主義の価値観対立によるアメリカvs中国といった構図が見受けられます。

世界史でもこの"理想国家"に関するキーワードがいくつか登場したかと思いますので、改めて調べて見ましょう。
というわけで今回のテーマは"理想国家"です。

■"理想国家"とは何か?

ユートピアから入ろうか迷いましたが、やはり最初は古典からいきましょう。
"理想国家"を論じた著書としてはまずプラトンの『国家』を見ます。
まずは概要、定義からいきましょう。
Wikipediaにはこうありました。

『国家』(こっか、古希: Πολιτεία、ポリテイア、英: The Republic)は、古代ギリシアの哲学者プラトンの中期対話篇であり、主著の1つ。副題は「正義[1]について」。『国家篇』とも。
国家 (対話篇) - Wikipedia

この著書では人間と国家体制について記されており、ソクラテスプラトンの考える"理想国家"が説明されているようです。

古代ギリシアにおいて支配的な考えであった小宇宙即ち人間と、大宇宙即ち国家との対比を用い、個人だけでなく国家体制そのものにまで貫徹させようという壮大かつ創造性豊かな哲学大系が提示される。

そのため、プラトンの政治哲学、神学、存在論、認識論を代表する著作とされ、古代西洋哲学史において最も論議される作品と位置づけできる。ゆえに本書で展開されている理想国家の発想は共産主義や後世のユートピア文学にも多大な影響を与えた。

ソクラテスプラトンの考える"理想国家"

『国家』の中でソクラテスは以下のように述べているようです。

そして理想国家を実現する条件としてソクラテスは独自のイデア論に基づいて哲人王の必要を主張する。この哲人王にとって不可欠なものとして教育の理念が論じられており、正義が人間を幸福にするものと考える。

哲人王という言葉が出てきました。
ここで分かるのは、今の日本のような民主主義ではないのですね。

またプラトンは5つの国家体制から最良は哲人王制としているようです。

プラトンは最適者、気概に富む者、民衆の三種類を想定し、そのどれが社会において上位を占めるかに応じ、哲人王制、最適者支配制、富者による寡頭制、民主制、僭主制の5つの国家体制を描き、どのようにそのような体制の交代がありえるかを描写する。

彼は哲人王制を最良の政体とし、この順に劣るものとし、最低のものが僭主制であるとした。ここにはプラトンの経験したアテナイの民主制とシュラクサイの僭主制からの知見が投影されている。



プラトンの構想では、国家の守護者のうち、優秀な者を選んで哲学や哲学者になるための基礎分野の学習をさせ、老年に達した者に国政の運営を任せる。 

これが哲人王の思想であり、そのためにはイデア、ひいては善のイデアの直接な観想が必要であるとされる(そして善のイデアを見ることが哲学の究極目的であるとされる)。

ではこの哲人王って誰なのでしょうか。

■哲人王は哲学者

というわけで"哲人王"を調べてみると以下説明がありました。

善のイデアを知った=善なる哲学者は最も物事を知り、知恵ある善き統治者たりうるとし、哲学者を王とする哲人王の思想を展開した。

また、彼は哲人王育成の教育プログラムやその過程での厳しい選抜についても述べており、誰でも哲人王になれるわけではなかった。

哲人王の候補者たちは数学や体育、音楽などの習いたい基礎科目・予備学科を習い、その過程で克己心や清貧などの徳を身につけることを推奨し、その上で哲学を学ぶ。

プラトンはこのようにして将来の哲人王を育成するべきであるとし、その過程で適性のない者をふるい落として厳しく選抜することを説いた。
哲人王 (プラトン) - Wikipedia

単なる物知りではなくて、「克己心や清貧などの徳を身につけることを推奨し」というのは良いですね。

ただ一人の独裁者、専制君主というよりは優秀な哲人王レベルの複数人による合議制のようなものが最終的な考えのようです。

しかし、プラトンは、後期最後の対話篇である『法律』の段階になると、「哲人王」を持ち出さなくなり、代わって『国家』で述べられた「哲人王」と同じような教育を受けた、しかも多くの国政実務経験者も含む、複数人による「夜の会議」という機構に、国制・法律の保全、及びその目的である徳・善の見極めを委ねる考えを、表明するようになった。

要するにエリート主義という風にも解釈されまして、以下のような批判もあるようです。

近代以前『国家』はユートピア的な理想国家の思想と捉えられてきたが、19世紀イギリスでは哲人王の思想はエリート主義的な国家運営のモデルとして見られた。

20世紀に入ってからは独裁国家イデオロギーの源泉のように見られるようになり、特にポパーの『開かれた社会とその敵』において哲人王はレーニンヒトラーに直結するものとして批判された[1]。

レーニンヒトラーに直結するかはどうかとして、確かに哲人王がどこまで少数派や多様性について考えてくれるか、人間と自然とのバランスについて考えてくれるのか、そして自分がどの立ち位置かで理想か否か分かれるかもしれませんね。

■トマス・モアの考えるユートピアとは何か?

ではここで改めてユートピアについても調べて見ましょう。

ユートピア(英: utopia, 英語発音: [juːˈtoʊpiə] ユートウピア)は、イギリスの思想家トマス・モアが1516年にラテン語で出版した著作『ユートピア』に登場する架空の国家の名前。「理想郷」(和製漢語)、「無何有郷」(無何有之郷とも、『荘子』逍遙遊篇より)とも呼ばれる。

現実には決して存在しない理想的な社会として描かれ、その意図は現実の社会と対峙させることによって、現実への批判をおこなうことであった。
ユートピア - Wikipedia

世界史では"トマス・モア"による『ユートピア』が登場した記憶がありますね。
ただし要注意のようです。

ユートピア」という言葉を用いるときには時に注意が必要である。現代人が素朴に「理想郷」としてイメージするユートピアとは違い、トマス・モアらによる「ユートピア」には非人間的な管理社会の色彩が強く、決して自由主義的・牧歌的な理想郷(アルカディア)ではないためである(第3節、第4節参照)[1]。

もう少し具体的に見てみるとこのような説明がありました。

ユートピアは500マイル×200マイルの巨大な三日月型の島にある。
元は大陸につながっていたが、建国者ユートパス1世によって切断され、孤島となった。島の中の川はすべて改造されまっすぐな水路とされ島を一周しており、その中にさらに島がある。
この、海と川で二重に外界から守られた島がユートピア本土である。ユートピアには54の都市があり、各都市は1日で行き着ける距離に建設されている。
都市には6千戸が所属し、計画的に町と田舎の住民の入れ替えが行われる。首都はアーモロートという。


ユートピアでの生活は、モアより数世紀後の概念である共産主義思想が提示した理想像を想起させる。
住民はみな美しい清潔な衣装を着け、財産を私有せず
(貴金属、特に金は軽蔑され、後述する奴隷の足輪に使用されている)、必要なものがあるときには共同の倉庫のものを使う。
人々は勤労の義務を有し、日頃は農業にいそしみ(労働時間は6時間)、空いた時間に芸術や科学研究をおこなうとしている。

どうですかね。
このような世界にみなさん住みたいですかね?
労働時間は6時間は惹かれますけど、私有財産の否定や都市と農村の交代制はなかなか気が引けますね。

そんなところからユートピア/理想郷どころか逆ユートピアと呼ばれることにもなったようです。

20世紀に入ると、「理想郷」と宣伝されていた社会主義国家や独裁国家が現実の存在となったが、その理想と現実の落差を批判したり、科学の負の側面を強調した小説が描かれた。
転倒したユートピア文学であることからこれらは逆ユートピアディストピア)と呼ばれる。

例えばとして『1984年』が思い浮かびますね。

ジョージ・オーウェルの『1984年』(1949年)や、エルンスト・ユンガーの『ヘリオーポリス』、レイ・ブラッドベリの『華氏451度』、星新一の『白い服の男』などの小説によって管理社会、全体主義体制の恐怖が描かれた。

また、手塚治虫の『火の鳥未来編』は『1984年』を粉本にしているとみられている。これらに描かれた国家は、一見すると平和で秩序正しい理想的な社会であるが、徹底的な管理により人間の自由が奪われている。

当時の共産圏や今日の管理社会に対する予見であり、痛烈な批判である。またそれを生み出した過去のユートピア思想や、その背景となった文明自体も攻撃対象である[1]。

"管理社会"ですか…、そういえば仕事をしくじると変な鳥と小動物に爆撃されるシーンがありましたね。

ユートピア文学に共通する「理想郷」の特徴

なんだか「理想」であるはずのユートピアが皮肉にも逆の意味合いになってきました。
特徴がまとまった記述があるので引用します。

以下に、過去のユートピア文学で表現されてきた「理想郷」にしばしば共通する特徴を挙げる。

周囲の大陸と隔絶した孤島である。
科学と土木によってその自然は無害かつ幾何学的に改造され、幾何学的に建設された城塞都市が中心となる。

生活は理性により厳格に律せられ、質素で規則的で一糸乱れぬ画一的な社会である。
ふしだらで豪奢な要素は徹底的にそぎ落とされている。
住民の一日のスケジュールは労働・食事・睡眠の時刻などが厳密に決められている。
長時間労働はせず、余った時間を科学や芸術のために使う。

人間は機能・職能で分類される。
個々人の立場は男女も含め完全に平等だが、同時に個性はない。
なお、一般市民の下に奴隷や囚人を想定し、困難で危険な仕事をさせている場合がある。

物理的にも社会的にも衛生的な場所である。黴菌などは駆除され、社会のあらゆるところに監視の目がいきわたり犯罪の起こる余地はない。

変更すべきところがもはやない理想社会が完成したので、歴史は止まっている。ユートピアは、ユークロニア(英: uchronia, 時間のない国)でもある。

以上のような、時計のように正確で、蜜蜂の巣のように規則的な社会像は、古代ギリシアの哲学者プラトンの『国家』[注釈 2]、『ティマイオス』[注釈 3]以来、ルネサンス期・啓蒙主義期に流行した『ユートピア』などの理想都市案から20世紀のディストピア小説、現実の共産主義国家のあり方までに共通するものがある[1]。

どうですかね。
犯罪は起きないけどあらゆるところで監視されている社会。

支配者にとってはある意味「理想」なんでしょうね。
と、コメントしたあたりから見えてきた気がしますね。

投稿日のWikipediaではこう締め括られていました。

ユートピアとは、結局のところ、唯一の価値観、唯一の基準、唯一の思想による全体の知と富の共有は、たしかに反するものが存在しないという意味で平和で理想であるという考えもあり、一方では、その実現には人間的なものや自由をすべて完全に圧殺しなければ実現しえないことを明確に表したものであり、理性以外のすべてをそぎ落とした果てにあるものの機械的な冷酷さを表したものという考えもある。

どうでしょう、みなさんは「理想国家」や「ユートピア」で生きたいでしょうか?

というわけで今回のテーマ"理想国家"に関心を広げてみました。

■参考文献①今回のテーマを深掘り

今回から文中にリンクを貼り付けてみました。

■参考文献②筆者の基本セット

・『ONE PIECE公式漫画アプリ』
ONE PIECE公式漫画アプリ

・教科書、用語集、人物辞典他

・筆者ベストチョイス①

聴き流しで歴史を学べるボカロシリーズ(幼稚園生からパパ&ママまで幅広くオススメ)

・筆者ベストチョイス②

カードゲームで覚える年号『タイムライン』シリーズと同じくカードゲームで覚える偉人『ソクラテスラ』

■あとがき

筆者としてもなかなか面白いテーマでした。

「理想国家」の「理想」って一体誰にとっての「理想」なの?というのがポイントですかね。

本当に全ての国民のためを思う哲人王が統治すれば「理想国家」になるかもしれませんが、じゃあその国の人以外はどうなるの?奴隷?支配?と疑問が湧きます。

じゃあ全人類を思う哲人王が統治すれば良い?でも本当にそんな人いるんですかね。

少なくとも「理想国家」なんてものを語り始める人物が台頭し始めたら小市民の我々は注意していかなければならない、ということを学びました。


ご覧いただきありがとうございました!受験勉強や教養の向上に活用いただければ幸いです。
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