この連載は無料公開されている『ONE PIECE公式漫画アプリ』から中学校社会科の歴史、高校世界史や日本史、そして現代世界情勢への興味・関心を引き出していくプロジェクトです。第96話に登場する"平和"について関心を広げます。
[長子6歳年次作:檄を飛ばす海軍幹部]
■海兵たちへ檄を飛ばす海軍本部
前回に続き第96話ではいよいよ海軍本部が登場しますが、そして幹部から海兵たちへの演説シーンでこのようなセリフがあります。
海軍幹部「逃げたい奴は今すぐ逃げ出せ‼︎!ここは一切の弱み許さぬ海賊時代の『平和』の砦っ‼︎!」
さて、この『平和』という言葉ですが、いったい何なのでしょうか。実は『平和学』という学問領域があるくらい奥が深いものでして、なかなか興味深いテーマです。
というわけで今回のテーマは"平和"です。
■"平和"とは何か?
まずは概要、定義からいきましょう。
Wikipediaにはこうあります。
平和(へいわ)は、戦争や暴力で社会が乱れていない状態。
と、奥が深いと冒頭宣言しつつ一瞬で終わってしまいました…。
ごくごくシンプルにまとめるとそういうことなのですが、では『暴力』って何?という問いかけがテーマを深めていきます。
ここで紹介したいのが、平和学における考え方です。
平和学(へいわがく)とは、諸国家間の紛争の原因、それが起こりうる背景や経済、地政学的な理由から、紛争回避の手立て、方法、平和の維持とその条件などを科学的に研究する分野である。
学問の分野ではなく、平和研究(へいわけんきゅう、英語:peace studies)という名称での分類が他言語では一般的である。
平和学 - Wikipedia
■ 「消極的平和(しょうきょくてきへいわ)」・「積極的平和(せっきょくてきへいわ)」
筆者は正にこの平和学を専攻していたのですが、以下ご覧になっていただくと分かる様に「平和=『構造的暴力』がない状態』と定義することでとても範囲の広い学際的な学問になるのです。
「消極的平和(しょうきょくてきへいわ)」・「積極的平和(せっきょくてきへいわ)」というフレーズは、1942年にアメリカの法学者クインシー・ライトが唱えたのが最初とされる。
その後、ノルウェーの平和学者ヨハン・ガルトゥングが、既存の肉体的暴力、精神的暴力、性的暴力などといった「直接的暴力」(direct violence)と、暴力が貧困や差別、格差など社会的構造に根ざしている場合の「構造的暴力」(structural violence)を提起したことにより、従来の平和学における「平和=単に戦争のない状態」と捉える「消極的平和」に加え、戦争の原因となる構造的暴力がない状態であるとする「積極的平和」[1](positive peace)という概念が確立し、平和学の理解に取り込まれ、一般的な解釈となった。
日本でも20世紀から同様に解釈されており、『構造的暴力と平和』(1991年中央大学出版部発行)などが出版されている。
その結果、現行の平和学の対象領域は広がり、貧困、飢餓、抑圧や開発、ジェンダー、コミュニティ、ノーマライゼーション、異文化教育といった日常生活に関わるテーマも含むようになった。
■『平和の砦』という概念
海兵が平和の砦という言葉を使っているのですが、これもキーワードとして気になるので以下をご紹介します。
ユネスコ憲章の前文に謳われているのです。
この憲章の当事国政府は、この国民に代わって次のとおり宣言する。
戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない。
ユネスコ憲章(前文)
■参考:平和学を学べる大学
世界史というよりもそれを理解した上で現代国際社会を読み解く国際関係論、その中でも平和研究に特化していくのが平和学なのですが、関心持った学生さん、受験生の皆さん用に研究機関もご紹介します。
国際基督教大学では平和研究を法学、政治学、国際関係学などからは独立した一つの専修分野(メジャー)として専攻し学ぶことができる。
また、平和研究所も開設されている。立教大学の大学院(各研究科)では主とする専門のほかに、"course of peace studies"を「平和コミュニティ研究機構所定の専門教育プログラム」として修めることができる。
鹿児島国際大学、東京学芸大学、獨協大学、法政大学、明治学院大学、立命館大学、早稲田大学などの大学では、政治学や国際関係論の枠内で平和学の講義を設けている。
海外ですとやはり英国のブラッドフォード大学が有名でして、筆者の知人も多数卒業生がおりまして、同大学にも訪問したことがあります。大学院や国際機関をお考えの方は是非ご参照ください。
というわけで今回のテーマ"平和"に関心を広げてみました。
■参考文献①今回のテーマを深掘り
・筆者ベストチョイス①
聴き流しで歴史を学べるボカロシリーズ(幼稚園生からパパ&ママまで幅広くオススメ)
■あとがき
筆者の専門だったのであまりのめり込まないように早めに切り上げました。他にもセム語系のshalom/salaam、ローマ時代のpax、東南アジアのshanti、平和や和平という言葉も同じ「平和」という翻訳になるのですが、セム語系はより『正義』に近かったり、paxは『繁栄』に近かったりと捉え方が異なるという研究もあります。
なので、平和(shlom/salaam=正義)のために戦争をする、ということがあるわけで、それがいつまでも争いや暴力がなくならない理由の一つとも考えられます。そして構造的暴力の是正のために直接的な暴力という選択をしてしまったり、となかなか難しいものですね。
みんな平等が素晴らしいかといえば、頑張っても頑張らなくても結果が平等で変わらなければ、頑張り損・やらないもの勝ちの社会になりかねないでしょうし、格差是正と平等の考え方もバランスが難しいものです。
受験までは答えのある世界ですが、そこから先は答えのない社会に飛び出していくということですね。
そして最後に、いよいよワンピース98巻出ましたね!侍たちの戦いが熱いですね。
ご覧いただきありがとうございました!受験勉強や教養の向上に活用いただければ幸いです。
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