この連載は無料公開されている『ONE PIECE公式漫画アプリ』から中学校社会科の歴史、高校世界史や日本史、そして現代世界情勢への興味・関心を引き出していくプロジェクトです。第43〜68話に登場する猛毒ガス弾"MH5"から毒ガスの歴史について関心を広げます。
[長子作: 猛毒ガス弾『MH5』を放つクリーク]
■マジで・発射・5秒前?化学兵器『MH5』
第62話ではパラティエを見逃したいと請うギンに対し、ドン・クリークは激怒し、猛毒ガス弾を発射します。
クリーク「猛毒ガス弾!!!『M・H・5』!!!!」
船員「きたぞオォ!!!」
コック「くそっ!!潜って遠くへ!!」
その後、毒霧が5分近く広がり、サンジに毒マスクを当てたギンは毒を吸い込み、吐血します。
部下の犠牲も厭わない卑劣な攻撃にルフィは怒り心頭し、いよいよ大将戦が本格化します。
この後も度々ワンピースの世界では様々な毒が登場していきます。戦いの場では肉体的な攻撃力とは異なる武力として、歴史的にも多用されてきたようです。
今回はこの毒ガス、化学兵器について調べてみます。
■恐ろしい化学兵器の歴史、古くは紀元前400年代
まずは定義からいきましょう。
Wikipediaにはこうあります。
化学兵器(かがくへいき)とは、毒ガスなどの毒性化学物質により、人や動植物に対して被害を与えるため使われる兵器のこと。
化学兵器禁止条約では、毒性化学物質の前駆物質や、それを放出する弾薬・装置も含むものとしている。リシンや細菌毒素などの生物由来の毒性物質を用いる場合は、化学兵器ではなく生物兵器に分類されることが多い。
ドン・クリークが使ったのは化学兵器ということで良さそうですね。
概要としては以下の説明がありました。
化学兵器はNBC兵器の“C”(Chemical)に当たり、核兵器(N)や生物兵器(B)と並ぶ大量破壊兵器の一つである。
毒ガスとして知られる兵器が主流で、マスタードガス(イペリット)やサリン、VXガスなどが著名である。
常温・常圧下でも気体である毒ガス兵器ばかりでなく、固体や液体(粘度の高いものを含む)のものもある。
後者は、高い揮発性で気体となって拡散するタイプばかりではなく、液体が噴霧された霧状の状態で効果を発揮するものも含む。
MH5は弾を撃ち込んでガスが広がっていくので、弾の中に固体や液体が含まれていて、液体が噴霧された霧状の状態で効果を発揮するものに該当しそうです。
さてこの化学兵器ですが、人類はいつから使い始めたのでしょう?第一次世界大戦やホロコースト等が頭に浮かびますが古くはペロポネソス戦争まで遡るようです。
広い定義をとれば、古くは唐辛子を燃した煙を利用するものが明代の中国の書物にも登場している。
より殺傷力のある兵器として人類史上初めて使用された化学兵器は、ペロポネソス戦争でスパルタ軍が使用した亜硫酸ガスであるといわれている。
ここまで古いとは思いませんでした。
ちなみにペロポネソス戦争は世界史の教科書にも出てくる古代ギリシアの戦争ですね。
ペロポネソス戦争(ペロポネソスせんそう、古希: Πελοποννησιακός Πόλεμος、英: Peloponnesian War、紀元前431年 - 紀元前404年[1])は、アテナイを中心とするデロス同盟とスパルタを中心とするペロポネソス同盟との間に発生した、古代ギリシア世界全域を巻き込んだ戦争である。
ペロポネソス戦争 - Wikipedia
ちなみに唐辛子を用いた兵器のはなしがでましたが、明は中国の王朝ですね。
明(みん、1368年 - 1644年)は、中国の歴代王朝の一つである。明朝あるいは大明とも号した。
朱元璋が元を北へ逐って建国し、李自成軍による滅亡の後には、清が李自成政権(順)と明の再建を目指す南明政権を制圧して中国を支配した。
人類は古くから毒ガス兵器を用いてきたのですね。唐辛子なんかは今でも催涙ガスに用いられてたりもするのでしょうか。
■近代から世界大戦へ、止められない化学兵器開発
毒ガス兵器を受ける被害者は後遺症が残ったりもしますし、非常に残忍な兵器ですが、近代から世界大戦へかけて化学兵器開発は加速していったようです。
近代に入ると科学技術の発達や化合物の発見などから、より効力の大きな毒物が開発された。
ナポレオン戦争時には、銃剣にシアン化水素(青酸)を塗ることがプロイセン軍に対して提案されたが、採用はされなかった[4]。
このような状況から化学兵器の本格使用に対する危惧も生まれ、1899年には毒ガス禁止宣言などがされた。
日露戦争では硫黄ガスが使用された。
毒ガス禁止宣言がなされても化学兵器の使用は止まらなかったようですね。
そして第一次世界大戦により、化学兵器の犠牲者は膨大な数となりました。
化学兵器がその威力のほどを広く知らしめたのが第一次世界大戦だった。
1914年からイギリス・フランス・ドイツの各国が、クロロアセトンやヨード酢酸エチルなどの催涙剤の配備を始め、遅くとも1915年3月までには散発的な催涙ガスの実戦使用が行われた。
以下に被害者の数を引用していますが、130万人となると青森県や岩手県の人口に匹敵するようです。
実に悲しい歴史であります。
第一次世界大戦中に開発された化学剤の種類は約30種に及んだ。
米英独仏の4ヶ国で生産された化学剤の総量は、塩素が19万8千t、ホスゲンが19万9千t、マスタードガスが1万1千tとされる。
中でも化学工業の発達していたドイツの割合が高く、塩素の5割、ホスゲンの9割、マスタードガスの7割がドイツで生産された。
うち12万4千t(化学砲弾など6600万発)が実戦使用された。
第二次世界大戦では日本軍も使用を試みたような説明がありました。
日中戦争開戦から2年後の1939年5月、参謀総長・閑院宮載仁親王の名前で大陸指第452号が出され、中国北部の北支那方面軍司令官に対し、「きい剤」を使用した作戦の研究が指示された[10]。
同時に「支那軍以外」への被害は極力少なくするように指示するなど「使用の秘匿」のために万般の処置が講ぜられた[10]。
1939年7月の晋東作戦で北支那方面軍所属の毒ガス戦部隊が、中国軍相手に「あか」弾約230発、「きい」弾約50発を砲撃した戦闘詳報が見つかっている[11]。
「きい剤」が分からず調べていたら内閣府のサイトにも詳しくどのような兵器が用いられたのかが写真付きで記載されておりました。
遺棄化学兵器等 : 遺棄化学兵器処理担当室 - 内閣府
■冷戦から現代へ、「貧者の核兵器」と恐れられる化学兵器
世界大戦が終わっても地域紛争は終わらず、化学兵器が用いられていったようです。
改めてWikipediaにはこうあります。
ドイツの技術を基礎としたVXガスなどの神経ガスが開発された。
特に赤狩りの頃には、化学兵器による侵略やゲリラ的な活動が懸念され、大きな社会不安となってあらわれた。
核兵器に比べて開発が容易な「貧者の核兵器」としても警戒された。
アメリカは、ベトナム戦争において、森林での戦闘に長けていた南ベトナム解放民族戦線に苦戦していたことから、焼夷弾による森林の焼き討ちと平行して、大規模な枯葉剤の散布を実行した。
枯葉剤にダイオキシン類が混じっていたことから、広範囲に汚染を引き起こし、ベトナム全土で異常出産の問題を発生させたともいわれる。
イラン・イラク戦争では、イラク軍が、イラン軍や国内のクルド人地区に対して神経ガスやマスタードガスを使用し、クルド人住民多数が死亡するハラブジャ事件が発生した。
湾岸戦争でも、イラク軍がイスラエルなどに対して化学兵器搭載の弾道弾を使用するのではないかと警戒されたが、これは実際には使用されなかった。
■化学兵器の規制へ向けた動き
もちろん人類としては規制に向けた動きもとってきました。ワンピースの世界はまだ法整備や国際規制が敷けてないかもしれませんが、現実社会は奇声が進められてきました。
法的規制の経緯
1899年にハーグで開かれた万国平和会議において、最初の明文による化学兵器の国際規制が決められた。この会議では、「ハーグ陸戦条約」規則23条で毒物(1号)及び不必要な苦痛を与える兵器・投射物・物質(5号)の使用禁止が規定されたほか、窒息性ガス・毒ガスの使用を禁ずる「毒ガスの禁止に関する宣言[13]」も採択された。
後者は、窒息性ガス及び有毒ガスの撒布を唯一の目的とした投射物の使用を禁止した内容だったが、ボンベから放出される方式の化学兵器は許されるとの解釈の余地があるなどの問題があった。
第一次世界大戦では、これらの条約にもかかわらず、各国による化学兵器の大量使用を防止することはできなかった。
第一次世界大戦での化学戦の悲惨な結果を踏まえ、1925年には「ジュネーヴ議定書」(「窒息性ガス、毒性ガスまたはこれらに類するガスおよび細菌学的手段の戦争における使用の禁止に関する議定書」)が締結された。
この条約により戦争での化学兵器使用が禁止されることとなったが、保有や研究までは禁止されなかった。
議定書は1928年に発効した。
第二次世界大戦後の1968年に国連軍縮委員会の議題として化学兵器の禁止があがり、翌年にはウ・タント国連事務総長の提出した報告書「化学・細菌兵器とその使用の影響」が契機となり、国連総会で化学兵器・生物兵器の禁止決議が採択された。
1972年に生物兵器の保有禁止を定めた「生物兵器禁止条約」にも、化学兵器の生産や貯蔵の禁止に向けた交渉努力規定が盛り込まれている(9条)。
その後もジュネーブ軍縮委員会での協議や米ソ間の2国間条約締結が行われ、ついに1992年には「化学兵器禁止条約」により、使用だけでなく軍事目的の保有や研究も多国間条約で規制されるに至った。
1997年には同条約の履行を監視する化学兵器禁止機関(OPCW)が設立された。
条約は化学兵器の保有国に原則として2007年までの廃棄を求めていた。
ロシア連邦は2017年9月27日、廃棄完了を宣言した(ロシアは旧ソ連時代に化学兵器の開発・生産に力を入れ、一時は約4万トンと世界最大の保有国であった)。
アメリカ合衆国は財源不足を理由に期限を延長しており、2017年時点では廃棄は未完了である[14]。
■参考文献①今回のテーマを深掘り
■参考文献②筆者の基本セット
・『ONE PIECE公式漫画アプリ』
ONE PIECE公式漫画アプリ
・教科書、用語集、人物辞典他
■あとがき
この後復活するギンを考えると重い後遺症は残らない毒ガスだったのかもしれませんね。クリークやギンは今頃何してるのでしょうね。
ご覧いただきありがとうございました!
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